「美味しいお肉を届けたい」町のお肉屋さんが作る究極の牛肉

小国町の中心部で約50年間、肉のわたなべを営む渡部畜産。
その4代目店主の渡部哲也さんは、お肉屋さんとして消費者に向き合いながら、山形県で唯一短角牛を生産する牛肉生産者でもあります。

まさか肉屋になるとは

哲也さんは元々、新潟の料理学校に通う学生でした。実家は肉屋でしたが、始めはお肉屋さんになるつもりはなかったそうです。
ですが、地元の小国町に帰って、父・孝弘さんの背中を見ながら学ぶこと2年間、市場に行ったり、お客様と関わりを持つようになり「ブランド牛等の良い牛を作ることも大切だけど、目の前のお客様がどうしたら喜んでくれるか」が一番重要だと思うようになりました。

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牛道。それは生産者と消費者をつなぐ新しい基準。

「美味しいお肉」と言われると、イメージされるのは「黒毛和牛」や「A5ランク」といったブランドイメージが思い浮かぶかと思います。ブランド牛やA5ランクの牛はやはり生産者の夢です。なので、もちろん多くの生産者がA5ランクの牛肉をつくることを目標に生産を行なっています。

ですが、実際高級和牛を食べる時を想像すると、誕生日や年末年始等の特別な日ではないでしょうか。

実際に、一番高級なサーロインの需要が少なくなっています。お肉を作っても、買い手が少なくなってしまっており、価格が安くなり、生産者としては方向性に迷いが出てきています。

渡部畜産では、牛の育成から加工、卸、販売まで一貫して行なっています。

現在、市場で牛肉の価値を決めているのは、1988年にできた格付け。歩留等級と肉質等級、つまり、生産性とサシを見た目で判断され、A5やA4などのランキングが決まります。

食への価値観が多様化した今、この格付けは本当の美味しさを表しきれていないのではないか。時代や食卓に寄りそう新しい考え方が必要なのではないか。そうした思いから考案したのが、料理やシーンに合った牛肉を見極める「牛道」です。それは、牛肉の個性を知り、楽しみ、理解を深めていくための牛すじ。「牛道」をもとに選ぶことで、牛肉本来のうま味を感じ取っていただけるはず。小国町の豊かな自然の中で手塩にかけて育てた味わいが光ります。

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肉生産と向き合い出会った短角牛

現在の牛肉生産に疑問を抱き始めた哲也さん、そのタイミングであるお客様から短角牛の生産を勧められます。短角牛は「日本短角種」をいう品種の牛で、4種類ある和牛品種の一つです。今、日本で多く飼育されている黒毛和種がサシ(霜降り)が入っているのに対して、短角種は低脂肪でうま味のもととなるアミノ酸をたっぷり含む赤身の牛肉であることから、健康志向や安全・安心を求める消費者の声により注目されており、関心が高まっています。

食への価値観が多様化した中で、旧来の牛肉の価値判断基準では美味しいとされる牛肉以外の需要も感じ始めた哲也さんにとって、短角牛との出会いは視野が広がるきっかけになります。

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短角牛生産のこだわりは小国町の自然

短角牛生産は『夏山冬里(なつやまふゆさと)方式』という飼育方法に特徴があります。夏山冬里方式は、夏の間は山の牧草地で放牧し、牧草をしっかり食べて腹作り、高原の良い空気で育ちながらのびのびとストレスなく飼育を行います。雪に閉ざされる冬は、里の牛舎に帰って飼育します。

自然に近い環境で牛を育てることできめ細かい脂肪と赤身のバランスが良くて、とてもヘルシーな牛肉が出来上がります。

小国町は朝日連峰と飯豊連峰に抱かれた、広大な森が広がります。この小国町の自然の大地は短角牛の本来の生産方法である夏山冬里方式を行うのにぴったりです。

哲也さんが飼育をする市野沢放牧場は、標高約430mに位置し、飯豊連峰を望む高台にあります。雄大な自然と吹き抜ける心地よい風。夏場も涼しい環境で牛はストレスなく成長します。

また、小国町は町土の9割以上がブナを中心とした広葉樹です。森から流れる清らかな水を飲み、広大な放草地を駆け巡ることで、足腰が鍛えられ、良質な牛へと育ちます。

さらに、飼料設計にも小国町の特色、こだわりがあります。

麦とくず米を炊いて、米ぬかと地元小国町の酒蔵「桜川酒造」の酒粕を混ぜて作る、独自飼料「炊き餌」を食べさせています。こうすることで牛の肝臓や胃に負担をかけず、ゆっくり時間をかけて消化ができ、牛は健康に育ちます。

小国町の自然を活かしてここでしかできない飼育方法で、米沢牛の産地で赤身肉専用の肉を作る。米沢牛と短角牛の生産の両方を行う哲也さん、米沢牛と短角牛のどちらが良いというわけではないが、どちらかを好きな人は絶対にいる。

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視野が広がり、新しい出会いも増えた

短角牛の生産を通して視野が広がったと話す哲也さん。その訳は、肉を通して他の業界のことについて学べたり、多くの人との出会いにあるそうです。

現在飼育している牛の多くは9割が外食産業への卸しとなっていて、料理に合わせた牛肉を提供しています。米沢牛はすでにすき焼きや焼き肉など、王道の食べ方が確立しています。ですが、短角牛はいろいろなアレンジができ、シェフの創作料理に使ってもらったり、ソーセージに加工をしたり、まだまだいろいろな可能性があると感じています。

また、すき焼きにする場合、日本酒を合わせることが多いですが、短角牛はワインが合うので、ワインの種流についても学べたり、知見が広がります。

今は外食業界もコロナ禍でかなり大変な状況にあります。この機会を利用して、外食業界の方が哲也さんの放牧場に見学に来ることも増えたそう。そこで哲也さんは外食業界の方の熱意に驚かされたそうです。

大変な状況が続く中でも屈せず、むしろ今が学べるチャンスとして小国町まで足を伸ばしてくれる、そういった方と関わっていく中でこちらも誠心誠意向き合っていきたいと哲也さんは言います。

今関わりのある飲食店の方が店舗展開をしていくから牛肉が欲しいと声がかかっても良い牛肉を提供できるよう、これからも安定した生産を続けていくことが今後の哲也さんの目標だそうです。

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取材:小国町地域おこし協力隊 西村 美祈