コンセプトは「奥川入家族を作る」

小国町・小玉川地区。

飯豊連峰のふもとに位置するこの地域で、民宿「奥川入(おくがわいり)」を営む横山さん一家。

家族で民宿を営みながら、農家として、そしてご主人の隆蔵さんと息子の拓さんはマタギとして山に入る。

そんな暮らしの中で奥様の尚美さんが語ってくれたのは、“自分たちで田舎を作る”という想いだった。

 

「田舎のイメージって、川があり山があり、トンボが飛び、セミが鳴き…っていうイメージでしょ。都会の人は田舎(実家)に帰ろうとした時、コンビニも近くにあるし、30分で観光地に行けて。でも、ここは?違うでしょ。それをいいなって。そういう人たちのために、本当の田舎を自分たちでつくろうって思ったの」

 

民宿に訪れる人々との関係も、“お客さん”というよりは“家族”に近い。30年来の付き合いがある人も多く、訪れる人の人生の一部に自然と入り込んでいる。

 

中でも印象的だったのは、仕事で3ヶ月滞在した男性とのエピソードだ。

団体で滞在した中の1人がピアスや髭など、ワイルドでやんちゃな雰囲気があった。初対面時は、不安感を感じたという尚美さん。しかし、どんな人にも平等に接する精神で、日々のやりとりを通して少しずつ心を通わせた。

 

「その方に「好きな食べ物なに?」って聞いたのよ。そしたら、『モス』って言うの。好きな食べ物がモスバーガー。でも、ご飯食うのかな、っていう日があって。卵かけご飯でよかったら食べてみてって言ったの。うちのにわとりの卵だから。そしたら、他の人たちに『おめえら、ここの飯、うめえわ。食え!』って。ご飯足りなくなって炊きなおしたりして。それでも、山菜料理とかは食べ慣れてないし残しちゃうでしょ。それで、私考えて、別の日の夕飯に町外まで行ってマックを20個買ってきて、夕食のお皿に盛ったの。『俺ら全国いろんなところに行ったけど、夕食でマック出たの、初めてだ!』ってみんなで大爆笑」

 

今では家族で泊まりに来てくれるようになったそうだ。

奥川入ならではのフレンドリーさと、実家に帰ったような心地よさが、何度でも足を運びたくなる理由なのかもしれない。

奥川入で提供されるお米は隆蔵さんが作る奥川入米。品種は「あきたこまち」「山形95号」そしてもち米も作っている。

日本有数の豪雪地帯小国の中でも特に雪深い地域である小玉川。飯豊連峰の雪解け水と寒暖差のある気候のなか、丁寧に育てている。低農薬、有機肥料。こだわりの生育方法で育てたお米には、宿泊客はもちろんのこと、毎年繰り返し購入しているファンも多い。

 

美味しさの秘密はなんですか?という質問に、「たくさんの人が関わって作っていること」と話す尚美さん。

 

「うちは家族3人だけど、田んぼに関わってる人はすごいいっぱいいるの。昨日は苗箱を洗うのに6人来てくれて、私一人でやったら3日半かかるところが1日で終わったの。もう、めっちゃ嬉しかったよ。(笑)」

 

今、日本全国の農家では、後継者不足や高齢化、耕作放棄地の増加といった課題が深刻化している。

「今後を考えると、農家という職業そのものがなくなってしまうかもしれない」と言われる時代。では、今も現場に立ち続け農業を続けている人たちの、心の奥底にある気持ちはなんなのか。

 

「先祖から受け継いだ田んぼを、自分の代で終わらせられない。それがたぶん、日本中の農家が一番根っこに持ってる気持ちじゃないかな」

「“食べてくれる人の顔が見える”って言うけどね、うちは逆なの。“作ってる私たちの姿”も、食べる人に届いてるって思えると、また来年も頑張ろうって思えるの」

 

そんな言葉の数々に、小玉川という土地と、ここでの暮らしの尊さがにじみ出ていた。

 

取材:舟山